兵器の世界では、巨人ゴリアテを倒したダビデ王の伝説になぞらえ、小よく大を制した事例が軍事面のみならず世間の耳目を集めてきた。その代表格である対艦ミサイルは、海軍力の格差を覆す“夢の兵器”として脚光を浴び、今も発達を続けている。
文=松代守弘(歴史群像2017年10月号)
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上右上)日本陸軍が大戦末期に開発した「イ号一型甲無線誘導弾」。上右下)鹵獲したドイツのV1を基にソ連が開発した16XA「プリボーイ」。パルスジェットエンジンが双発化されていた。上左)KSR-2対艦ミサイルを発射するソ連のTu-16爆撃機。対艦ミサイルは冷戦期には対米戦略を担う存在になっていた。下)甲板に設置された専用ランチャーから発射されるハープーン対艦ミサイル。現在も改良型が広く使われている。
対艦ミサイルへの評価
ちょうど半世紀前の一九六七年十月二十一日、イスラエル海軍駆逐艦『エイラート(INS Eilat K-40)』がシナイ半島のポートサイド付近でエジプト海軍の対艦ミサイルによって撃沈され、全世界へ大きな衝撃を与えた(当時は米『ライフ』誌なども大きく報じた)。この、いわゆるエイラート事件※注1をきっかけに、対艦ミサイルの有効性が脚光を浴び、陸戦と空戦に続いて海戦においてもミサイル時代が到達したと考えられた。
例えば米海軍研究所が発行する「海軍史」における記事や、英キングス・カレッジ教授で軍事史学者のジェフリー・ティルも、海洋軍事における転換点のひとつに本事件をあげ、十九世紀にフランス海軍において提唱された新生学派※注2の正しさが証明されたと評価した。そして、米ソ冷戦期に対艦ミサイルは全盛を迎え、特に一九八二年のフォークランド紛争での印象的な活躍は「対艦ミサイル神話」と言えるほどメディアでもてはやされた。
このように、実用的な対艦ミサイルの登場は、沿岸海軍の小艦艇に自艦より大型の艦艇を撃破することが可能な強大な攻撃力をもたせ、それによって「巨人殺し」とも例えられる神話的役割をも担うに至った。しかし、冷戦の終結とともに大型艦艇同士の水上戦はもちろん、小型艦艇による対艦攻撃の可能性も減少し、対艦ミサイルの運用母体としての水上艦艇の役割は大きく様変わりしたと考えられるようになった。具体的には、敵水上艦艇との交戦よりも敵対水域への偵察ならびに、友好国、中立国の周辺水域に対する巡視や監視、捜索、探知といった警察行動等が主な役割とされ、攻撃力としての対艦ミサイルの位置づけも見直され始めた。特に根本から覆ったのが、その「巨人殺し神話」である。
ところが、今世紀に入って中国海軍が質量ともに急拡大し、新型対艦ミサイルの開発や配備が加速。他方、ロシアも新たな対艦ミサイルの開発を積極的に進めており、状況は再び根本から様変わりしつつある。
本稿では、このような対艦ミサイルの誕生から現代までの流れを辿ってみたい。
注1:同年に発生した第三次中東戦争はいちおう停戦していたが、エジプトによる散発的な攻撃(消耗戦争)は続いており、本事件もその一環である。
注2:Jeune Ècole。有効な兵装を備えた多数の小型艦艇により、敵の大型主力艦に対抗するという海洋戦理論およびその賛同者。青年学派ともいう。
対艦ミサイルの定義と旧来兵器との相違点
本稿においては、対艦ミサイルを以下のように定義する。
1:水上目標を攻撃する兵器である。
2:爆発力あるいは焼夷効果、衝突時の打撃などで目標を直接的かつ物理的に破壊する。
3:自らの推進力によって空中を飛翔する。
4:射出後に自らの操舵機能により進路を調整して目標へ接近する精密誘導兵器である。
5:無人兵器である。
以上は対艦ミサイルの最大公約数的な定義であろうと思われる。水上目標を攻撃する兵器であっても、核兵器のように衝撃波や熱線で広範囲の目標を破壊する、あるいは電磁パルスなどを用いて電子的な破壊をもたらす兵器は除外される。中国軍の対艦弾道ミサイルや米軍の対艦巡航ミサイルのような戦略兵器の対艦転用例についても、弾道ミサイルは開発経緯が、戦略巡航ミサイルは運用などが対艦ミサイルと大きく異なっており、本稿では論旨を明確にするため言及を最小限に留める。
次に、本稿の主題となる対艦ミサイルと、それが登場する以前から運用されていた艦砲や魚雷、航空爆弾との主な相違点を概説する。
砲弾も航空爆弾も魚雷も、爆発力や焼夷効果、衝突打撃などで目標を直接的、物理的に破壊する点は対艦ミサイルと同じだ(もちろん、いずれも無人兵器である)。だが、砲弾と航空爆弾はそれ自体に推進力を備えておらず、魚雷は空中を飛翔しない。つまり、対艦ミサイルの大きな特徴は自らの推進力によって空中を飛翔することと、自らの進路を変えて目標へ接近する精密誘導兵器であることと言えよう。これにより、ロケット推進の飛翔兵器である無誘導の対地ロケット(いわゆるカチューシャや火砲から発射可能なロケット推進弾)は、仮に対艦攻撃に使用する可能性があるとしても除外される。
ただし、太平洋戦争末期に日本軍が行った特攻は、操縦者が搭乗して目標に突入するという点を除けば、対艦ミサイルの最大公約数定義をほぼ満たしている。特に旧日本海軍が実戦投入した「桜花」は、固体ロケット推進であったことも含め対艦ミサイルの祖先ととらえる意見※注3もある。実際に「桜花」は沖縄戦においてアメリカ海軍の駆逐艦に突入し、轟沈させている。
その評価はさておくとしても、「特攻」には一つの注目すべき要素があり、対艦ミサイルの特徴とも重なっている。それは発進基地や母機、母艦と目標との相対位置・相対角度が命中率に大きな影響を及ぼさなくなったことである。特に角度の呪縛が弱まった点は大きい。
注3:「桜花」は当初、遠隔無線誘導方式が検討されたが、精度が低いことから有人自爆兵器とされたとの説があり、対艦ミサイルの祖型とみなす事が可能だ。
